こまだこまのロバの耳ブログ

旅行と生活。ときどき読書。だいたい酒。

バックパッカーのたしなみ

ドイツのケルンで、ゲストハウスに泊まったときの話。

 

そこは女性限定のドミトリー、6人部屋だった。ゲストハウスというと大体2段ベッドが置いてあるところが多いが、ここは違った。ぎしぎしときしむ簡素なパイプベッドが6台、部屋の形に合わせて配置されている。枕カバーとベッドカバーは白。

安さしか取り柄のないようなその部屋は、映画で観た野戦病院のようで、少し気が滅入る。

私のベッドは窓際であったことがせめてもの救いだった。入口のドアからも一番遠く、多少は落ち着いて過ごせる。

 

観光を終えて夜部屋に戻り、部屋ではそれぞれが思い思いに過ごしていた。私は携帯をいじっていたし、隣の女性はシャワーを浴びて帰ってきたところ、そのまた隣の女性はすでにもうすやすやと寝入っている。その隣の女性はベッドの上で何かを食べている。そしてもともと友達なのかここで仲良くなったのか、私の向いの二人は、寝ている人がいるのも意に介さない様子できゃっきゃっと楽し気に話している。

 

その時だった。

ものすごい爆発音が部屋に響いた。部屋にいた全員が反射的にびくっと肩を震わせる。沈黙。そしてお互いの顔を見つめあう。何が起こったのか?

私たちはその1秒後、事態を理解した。それはおならだった。眠っている女性が寝っぺをしたのだった。

 

ほっとした空気が部屋に流れ、なんとなくまたお互い顔を見合わす。みんな笑いがこぼれそうになるが、誰も声に出して笑う者はいない。そっと微笑むにとどめる。これはバカにした笑いではない、安堵の笑みなのよ、という共通了解が瞬時に形成されたように感じた。

そしてまたすぐにそれぞれの時間に戻った。

 

これはたぶん、自分も寝ているときにいつ爆発音に匹敵するおならをしているかわからないのだから、他人のことを笑ってはいけない、というか笑えない、というような気持ちをみんなが持っていたからじゃないかと思う。明日は我が身。いや、今夜かもしれない。

 

なんとなく、安宿に泊まる者のたしなみというか、心持ちのようなものを見た気がした。

 

 

次の日の夜、その寝っぺをした女性はまた小爆発を起こしたが、もう誰も驚かなかった。