こまだこまのロバの耳ブログ

旅行と生活。ときどき読書。だいたい酒。

モロッコのマラケシュのすみっこで愛を叫んだら命拾いした話

今週のお題「ちょっとコワい話」

 

マラケシュのすみっこで愛を叫ぶ

むかーしむかしもう10年も前、わたしのお肌にまだシミもシワもなかった頃、モロッコのマラケシュという町でコワい目にあった。

 

マラケシュには、一人で行った。

 

広場に大勢いる大道芸人たちをひやかしたり、迷路のようにはりめぐらされている狭い路地を気の向くままに歩き、職人の仕事を眺めたり、暇をもて余している雑貨屋の店員にクソ甘いミントティーをごちそうになったりと、特に目的もなくうろうろと歩きまわって知らない人たちと話すのは楽しかった。

 

みんな気さくで優しかった。

 

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夕方4時過ぎくらいだっただろうか、もうすぐ日も暮れてこようかと言う頃、50歳くらいのよく日に焼けた小柄なおじさんに話しかけられた。

 

マラケシュを案内してくれるという。

案内つってもなぁ……と思い、めんどうなのでやんわりと断ったが、おじさんはわたしに歩調を合わせてついてくる。

 

ちょっと強引なところもあるが人なつこそうなおじさんにわたしは、

「ビール買えるとこってあります?」と片言の英語で聞いてみた。

 

モロッコはイスラム教徒がほとんどなので、お酒が手に入るお店がなかなか見つからないのだ。

 

やった!とばかりにおじさんが、「俺が連れてってやる」と歩き出した。

なんとなくおじさんのあとをついていくと、小さなバイクがある。

 

「後ろに乗れ」と言うので、え、バイク……と躊躇したものの、この迷路のような狭い路地を地元の人間とバイクで走る、ということへの興味と、なによりビールへの誘惑にわたしはあっさり負けた。

 

まぁ大丈夫だろう、ときわめて自分に都合のいい楽観的な予想をしてバイクの後ろにまたがる。

するとビールを売っている商店へ行く前に、知り合いの革職人のところに案内された。

 

む。なにか買わせるつもりか?と身構えたが、ただただ職人の仕事について説明してくれるだけで、職人の人もにこにこ笑っているだけで拍子抜けする。

 

そしてやっとビールを売っている商店へ。

この頃にはもうわたしは、どこをどう走って自分がどこにいるのか、全くわからなくなっていた。大道芸人たちがいた広場からはけっこう遠い場所にいるような気がする。

もう日も暮れていた。

 

ようやくありついたビールはとてもおいしかった。1本をすぐに飲みほし、2本目も飲みたいところだったが、さすがにもうこの暗さで一人で外にいるのは不安だ。

 

おじさんに、町に帰ろうと言うと、わかった、とおじさんは再びバイクにまたがり、わたしもうしろに乗る。

 

おじさんはどんどんバイクをとばしていくが、なにかおかしい。

道の両脇がうっそうとした草ムラになってきていて、街灯も少なく薄暗い。町の中心へ帰る道とは思えない。

 

おまけにわたしは尿意を催していた。

「トイレに行きたいんだけど…」

と言うとおじさんはすぐに草ムラにバイクをとめた。

 

「そこでするといい」と、当たり前のようにわたしに言いわたし、ちょっと離れたところで自分はいきなり立ちションをはじめた。

 

これは同じタイミングでやらなければ!!

と瞬時に判断したわたしは、猛ダッシュで丈の高い草ムラの方へ行き、慌ててしゃがんで野ションした。

 

ふぅ…。

わたしが戻るとおじさんはなぜか、バイクをとめてある大きな木の横に腰をおろしている。

運転に疲れたのかな?となんとなくわたしも腰をおろすと、いきなりおじさんは

「キスしよう」

と言い、わたしの肩をつかもうと手をのばしてきた。

 

とっさにその手を払いのけようとしたところ、ガッ!!とお互いの両手が組み合わされた。

万事休す。

 

まるでレスリングのように、力と力のぶつかり合いだ。

力づくでわたしを押し倒そうとするおっさんと、させてなるものかというわたし。

ぎりぎりと腕の力は拮抗している。

どちらも一歩も引かない。

引いた方が負けだ。

 

やめろーーー!!すとーーーっぷ!!すとーーーっぷ!!!!!

組み合ったままわたしは大声で叫びつづけた。

 

さすがにおっさんも疲れたのかそのうちに手の力を緩め、がっちり組み合わされていた手も離れて、お互いに一息ついた。

 

そしてわたしはおっさんに言った。

「りっすんとぅーみー。あいはぶあぼーいふれんどいんじゃぱん。ひずねーむいずさと

る。おーけー?」

 

それがどうした、という顔でおっさんは聞いているがわたしは続ける。

「じゃぱん、あっちね、おーけー?」と適当な方向を指さし、わたしは立ち上がってその方向にむかい、

 

「さとるーーー!!へるぷみぃぃぃーーー!!!さとるーーー!!!!」

となるべく大げさに、なるべく間抜けに聞こえるように何度も叫んだ。

 

………………………

 

「あっはっはっはっは!!!」

少しの沈黙のあとおっさんは弾かれたように笑って、わかったわかった、と言いながら笑い続けている。

 

そして、わかったよ、もう帰ろう、とすっかり力の抜けた顔で立ち上がってバイクの方

へ歩いていく。

 

話が通じる人でよかった……。

そして小柄なおっさんでよかった……。

わたしは軽々しく知らない人についていったことを深く反省した。

 

 

日本にいながらにして彼氏はわたしのピンチを救い、かくして無事に町へ帰ることができたのだった。

 

 

 

でもあれから10年経った今でも、知らない人についていく性格は直っていない。

そしてあれ以来、愛を叫ぶようなピンチにも陥っていない。

 

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