兼好師匠に会いにゆく
わたしも彼氏も好きな落語家さんのひとり、三遊亭兼好師匠が朝日カルチャーセンターの立川教室で講座をされるというのをたまたま知って、行ってみました。
こういうところでも話をされているんですね。今回で5回目だそうです。
1時間半の講座で、値段はひとり3,024円。
受講者は60人くらいで席は早いもの勝ち。そんなに大きな部屋ではないので、どこに座っても大差ありません。
落語二席と解説が聞けるということで、ふだんの高座とは違ったおもしろさがありそうです。
講座で高座。
兼好師匠に年収以外はなんでも質問
上に貼った講座の説明を読むと、落語をやったあとにその噺の解説をするのかな?と予想していたんですが、少しあいさつ的な話をしたあとにいきなり質問コーナーで、そのあとに短い噺を一席されて、途中休憩をはさんで後半も同じ流れでした。
「年収以外はなんでも答えますので」とはじまった質問コーナー。本当にいろんな話を聞くことができて、あっというまの1時間半でした。
以下、覚えている範囲で、お客さんと兼好師匠のやりとりをまとめてみます。
(内容だけを簡潔にまとめたもので、口調など細かいニュアンスは実際と違います)
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Q.前座噺とそうでない噺の区別はどうなっているんですか?
A.それぞれの一門によって違います。
林家一門では前座さんがかけてはいけない噺が、三遊亭一門では前座噺だったりします。
基本的には10分程度で、ストーリー性はないけれど笑わせどころの多い噺が多いです。
落語の脚本というのは実によくできているので、昨日落語を覚えたばかりの人間でも一生懸命やれば「ハハッ」くらいは笑いが起きます。
最近は前座さんも数が多く、寄席で毎回前座さんたちが同じ噺ばかりするとお客さんも飽きてしまいますので、以前は前座噺ではなかったようなものも最近は話されるようになってきています。
Q.落語家を目指すきっかけになった噺はありますか?
A.「紙屑屋」という噺。
好楽師匠(注・笑点でピンクの着物を着てる人ですね)に弟子入りする前に、初めて生で落語を聞きに行って、そのとき好楽師匠がかけていた噺が「紙屑屋」。
わたし自身、噺そのものは覚えているのでやろうと思えば高座にかけられますが、好楽師匠が教えてくれないのでかけられないし、自分にとっても思い出深く大事な噺なので、もしかしたら一生高座にかけることはないかもしれないですね。
逆に、自分は演じていてとても楽しいけどウケない噺は「提灯屋」、
自分はそうでもないけどウケがいいのは「井戸の茶碗」あたりでしょうか。
Q.好楽師匠に弟子入りして良かったことと悪かったことはなんですか?
A.好楽師匠はとにかく明るくていつも楽しそう。家族の仲もとても良くて、家におじゃまするといつもみんなでキャッキャしてますね。
好楽師匠は落語の世界に対する愛がとても深い人で、わたしを叱るときはよく「お前は落語に対する愛がないね」と言われていて、何を言われるよりもそれがしみじみこたえました。
でもそうやって叱ってもらったことはとてもありがたく思ってます。
Q.お弟子さんを怒ることってありますか?
A.わたしは冷たいんで怒ることはないですね。怒るのってとても疲れるし愛情もなきゃ怒れないので、もう数年たたないと怒ることはないんじゃないかなぁ。
Q.中学校で国語教師をしています。教科書に「猫の皿」という噺が載っていて、落語をやりたいという子供たちもいますが…どのように授業で教えたらいいでしょうか?
A.なんでもいいから、ジョークとか小噺をたくさん集めたものを読んで、まずはそのなかからおもしろいと思ったものを覚えてみる、っていうのがいいんじゃないでしょうか。
人それぞれ「おもしろい」って感じるものは違うから、みんなに同じ噺を教えるよりそれぞれおもしろいものを見つけていったらいいと思いますね。
Q.自分の師匠以外の人に噺を教わることってできるんですか?
A.できます。
○○師匠(すみません、名前を忘れてしまいました!)が持っている「禁酒番屋」という噺を教わりたいと思ったときにどうしたかというと、まずはお宅に伺ってしばらくのあいだは掃除や荷物もちなどの雑用をこなし、あるていどの関係性が築けたと思ったらおもむろに、前座噺を教えてほしいとお願いします。
そうして稽古をつけてもらったりしているうちに、ちょこちょこ仕事がもらえたりするようになってきます。
そしてさらに関係を深めていって、2,3年たった頃ようやく「禁酒番屋」を教えてください、とお願いして教えてもらうわけです。
噺はその落語家さんにとって大事な「商品」ですから、軽く教えてください、というわけにはいきません。
Q.落語家さんはいつも時間ぴったりに噺が終わりますが、体内時計があるんですか?
A.落語というのはよくできていて、この噺はふつうにやるとだいたい10分で終わるとか、20分で終わるとかっていうふうにできてます。
なので、与えられた時間によってマクラ(本題に入る前の導入部)の長さを調整したりして帳尻を合わせます。
最初は時計をチラチラ見ながらやってますが、何回もやっているうちにこれくらいでしゃべればこれくらいの時間で終わるんだな、というのが感覚的にわかってくるので、体内時計はあるといえばあるかもしれないですね。
Q.落語の練習をされるときに、自分で動画を撮って見たりするということはありますか?
A.ありますが、このやり方にはひとつ欠点があって、自分で自分の動画を見過ぎると自分のことが好きになってしまうんです(笑)
そうすると、自分の落語がよくできているというふうに勘違いしてしまいがちです。
実際には、他の人の落語を聞いて「こいつ俺より下手だな」と思ったら自分と同程度、「これは俺と同じくらいかな」と思ったら自分より少しうまい人、「この人は俺よりちょっとうまいかな」と思ったら自分よりうんとうまい人、と思って間違いありません。
Q.落語をされるときに、どういった心持ちでやられているんでしょうか。なにか気をつけていることなどありますか?
A.笑いというのは武器になります。でも武器になるということはそれによって傷つく人もいるかもしれないということです。
わたしは80人の人にどかんとウケたけど20人の人が傷ついた、というよりは、ウケはそこそこでも100人全員が誰も傷つかずに気持ちよく帰ってくれた、という方を目指しています。
それでも誰かを傷つけてしまうことはあるかもしれないですけどね。
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個人的にはいろいろと驚く話、なるほど…と考えさせられる話ありで、全体的にとても興味深く聞きました。
お客さんの質問に対して前のめりになって耳を傾ける様子や表情、話の内容などから、兼好さんはとてもまじめな方なんだろうなぁ……と想像しました。
落語は一席目は、国語教師の方の質問からの流れで「猫の皿」
二席目はお客さんからのリクエストで「辰巳の辻占」
落語は短め、お客さんからの質問に答える時間が長めの講座でした。
落語以外の話を聞くのもおもしろい
カルチャーセンターの講座というのは初めてだったのでどうかな?と思いましたが、普段聞けない話がたくさん聞けたので、行ってみてよかったです!
落語を聞いているだけでは見えない部分がいろいろと垣間見えて、ちょっと得した気分になりました。
と同時に、今回の講座は1時間半で3,024円、浅草演芸ホールで寄席を観たら何時間いてもよくて2,800円なので、寄席ってめちゃくちゃお得な娯楽だよなー、とあらためて思ったのでした。
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